2013年3月21日木曜日

三者三様の才能と個性が輝いた!

コラムのご紹介です。

三者三様の個性が輝いた!世界フィギュア女子に見た醍醐味。



田村明子 = 文

text by Akiko Tamura
photograph by Getty Images


「SPで6番になってしまったとき、去年の世界選手権でも6番で、今までやってきたことは何だったのだろうと思いました。でも2シーズン後に(表彰台へ)戻ってこられてすごく嬉しいです」

 浅田真央は、ロンドン(カナダ)で開かれた世界選手権の記者会見でそう語った。穏やかで落ち着いた、良い表情をしていた。

 今シーズン出場した試合すべてで勝ち続けて、2月の四大陸選手権では封印していた3アクセルもきれいに決めた。だが今大会のSPでは冒頭の3アクセルを決めたものの、フリップが回転不足になり、最後のループジャンプがパンクして1回転になってしまうというミスがあった。

 今シーズン初めて顔を合わせるキム・ヨナ、カロリナ・コストナーらとメンバーが揃った中で、全員がノーミスで滑ったらどのように採点されるかを見たかっただけに、残念だった。


☆3年ぶりに世界選手権の表彰台に返り咲いた浅田真央。




 それでも得点は62.10を得て、ノーミスで滑って5位だったアシュリー・ワグナーとわずか1.88差だった。それも今シーズン、浅田が着々と築き上げてきた5コンポーネンツ(スケーティング技術、音楽表現など)の評価の高さのおかげである。

 フリー「白鳥の湖」のときは、直前の6分間ウォームアップで佐藤信夫コーチも驚くような完璧な3アクセルをきれいに決めた。本番では両足着氷になったものの、回転は回りきった。次に予定していた3フリップ+3ループのコンビネーションがフリップの着氷でバランスを崩して単発になったことは勿体なかったが、後半の2アクセル+3トウループなども成功させて最後までよくまとめた。

 フリーは2位、総合3位で3年ぶりに世界の表彰台に返り咲いた。

FS「白鳥の湖」スタート。息をのむほど美しい一瞬。




「今日のフリーは練習してきたことを出そうと思ってやった。3アクセルと3+3は悔しかったけれど、そこから気持ちをうまく切り替えることができて良い終わり方ができました。充実したシーズンだったと思います」

 勿体ないミスもいくつかあったが、シーズンを通して戦い続け、表彰台に乗り続けた浅田真央は、満足げな表情でそう締めくくった。



☆3年前と変わらぬ演技。圧巻の強さを見せたキム・ヨナ。




 優勝したのは、2年ぶりに世界選手権に戻ってきたキム・ヨナだった。久しぶりに見るキムは、びっくりするほど強かった。

 バンクーバー五輪で金を獲得した3年前と少しも変わっていない、スピードのある3ルッツ+3トウループ。他の女子たちは、もっと難易度の低いトウループの3+3ですら四苦八苦しているというのに、なぜ彼女だけあれほど軽々と跳ぶのだろう。フリーでは、合計6回の3回転ジャンプを成功させた。まったく危なげのない、失敗しそうにない演技だった。SPではまだ様子を見ながら点をつけていたように見えるジャッジも、フリーでは気前よくGOEの加点をつけ、2位に20点以上の点差をつけた圧勝だった。

☆「スケートを愛しているから戻ってきた」


「バンクーバー五輪で金を取って目標が達成できてから、しばらく心が空っぽになった思いだった。もう一度五輪に挑戦すると決めたのは、スケートを愛しているから。もう一回目標は達成しているので、勝たなくてはならないというプレッシャーはない。ただスケートを楽しみたいと思ってこの試合に挑みました」

 キム・ヨナは、会見でそう語った。心なしか以前よりも角が取れて、大人の女性の表情になっている。




「五輪というのは、特別な体験。五輪枠を取って、韓国の若手の選手も一緒に連れて行ってあげたいと思っています」

 そう言って、若手の育成も心にかけていることを口にしたのは、2018年平昌五輪のことを考えてのことだろう。

 12月に彼女が復帰したNRW杯の映像では、まだまだフリーは試合に向けての調整ができていないように見えた。だがこの世界選手権では、ジャンプは驚くほど安定して無駄な力が入らず、SPでフリップに不正エッジの判定が出た以外ほぼ完璧だった。スポーツ選手として、久しぶりの大舞台でここまでの調整をしてきたのは見事だったとしか言いようがない。







 点差について聞かれると、「多くの試合に出てきたけれど、その試合によってジャッジも違えば私たちの演技の内容も違うし、出る点数も違う。今日の点数が必ずしも今後の参考にはなりません」と、大人らしい対応をした。

 ただあえて言うならば、SP、フリーともにジャンプに集中しているように見え、プログラム全体の印象が心に残らなかった。「強い」ということ以外のキム・ヨナという人となりが、氷の上の演技を通して伝わってこなかった、と言ったらいいのだろうか。

☆フィギュアの本質を問う、コストナーの演技と言葉。


 この大会でもっとも心に残ったのは、カロリナ・コストナーの演技と言葉だった。SPでは3+3トウループの最後で転倒したにもかかわらず、3ルッツ+3トウループを成功させたキムとの点差はわずか3.11。もしコストナーが完璧に滑っていたなら、おそらくジャッジは彼女を1位にしたのではないかと思う。

 だがフリーでは、コストナーは演技直前に鼻血を出すというハプニングに見舞われた。懸命に鼻の根元を押さえて苦笑いしながらも、スタートした「ボレロ」はモダンバレエの舞台を見ているような美しいプログラムだった。これをノーミスで滑りきったら、フィギュアスケート史上に残る作品になるのではないか、とすら思わせた。スピンのときに鼻を片手で抑えていたのも、まるで振付の一部に見えるほどエレガントだった。だが演技の内容は彼女のベストとは程遠く、特に終了直前の3サルコウの転倒は響いた。





 結果はフリー3位、総合2位。11回目の世界選手権、5個目のメダルだった。

「この11年間、フィギュアスケートとは何かということを私なりに考えてきました。私は口下手なので、言葉で自分をうまく表現できない。でも完ぺきではないけれど、これが私なのです、と氷の上なら自分を表現できる。フィギュアスケートはジャンプだけではなくて、一つの芸術の形だと思います」

 コストナーが会見でそう言った言葉は、彼女のスケートに対する姿勢そのものを表現していた。

☆異なるスタイルの一流選手が競い合ってこそ、フィギュアは面白い!


 ひたすら純粋に、ひたむきに自分の向上を目指して進み続けるピュアな浅田真央。

 圧巻の運動能力と意志の強さを感じさせるキム・ヨナ。

 そして、氷の上の芸術家であるカロリナ・コストナー。

 誰もがその個性を、氷の上で表現している。こうしたさまざまな違ったタイプの一流選手が揃ってこそ、フィギュアスケートは面白い。今回ロンドンでは女子シングルがもっとも面白い試合展開だった。

 さらに言うとSP3位、総合4位だった村上佳菜子の成長ぶりも、とても印象的だった。特にSPの完璧なまでの美しさは、彼女のこれまでの演技の中で、最高だったのではないだろうか。




 11カ月後のソチ五輪では、これらの色とりどりの花たちがたった1個の金メダルを求めて激しく競うことになる。誰がどのような咲き誇り方を見せるのか、今から楽しみである。

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